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理想の田舎暮らしが見つかる! 移住体験ツアー・イベントの賢い活用法

馬場未織馬場未織

2017/07/13

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イベントには「知った気になってしまう」リスクがある


(c) Norman01 – Fotolia

地方への移住、二地域居住へ関心を持つ人が増えている昨今、日々あらゆる自治体において田舎暮らし体験ツアーや移住促進イベントなどが組まれています。

わたし自身、二地域居住歴11年目でNPO法人主催という立場から、そうしたイベント企画の主催側に立つことが多いのですが、「イベントに参加したことで、地域の暮らしの様子を知った気になってしまう」というリスクについても同時に懸念しています。

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移住者獲得につながるようにと、いくら主催者が趣向を凝らしても、地域の暮らしをダイジェスト版で示すのはやっぱりむずかしい、と実感しています。

限られた時間のなかで、その地域の暮らしぶりを伝えようとしたとき、どうしても「よいところ」を中心にギュギュっと伝えたくなるのが人の常です。

こんなに魅力的なところだよ!

こんな支援もあるよ!

行政も、市民も、みーんな親切だよ!

美味しいし、楽しいし、一緒に暮らそうよ!

と。

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なぜイベントでは悪いことを言わないのか

そりゃそうですよね。

主催者としては、まずその移住促進イベントに来てもらうところから勝負が始まっていますから、必然的に手厚くもてなすような風情になっていきます。

参加者は、その時点では “お客さま扱い”です。彼らがほかに気移りしないよう、主催者は精いっぱいのアピールをすることになります。

決してマイナス面を隠そうとしているわけではなく、「もちろんいいことばかりではありません、暮らしの大変さなども率直にお伝えしたく!」などとわざわざ言ったりもしますが、できるだけ前向きな検討を促したいという思いは、やはり先に立ちます。

「そうではない、いいことも厳しいことも全部聞かせてくれる本音のイベントはないかなあ」なんて思っても、そうそうないと思います。

「こんなに不便」「こんなに大変」と、しょっぱなから提示されたら、じゃあ移住自体をやめるか、となるのがオチですからね。基本的には、参加者のことを「お客さま」扱いするほかない。

住んでしまったらいろいろな義務や責任が発生する「住民」ですが、住むまでは「お客さま」です。言ってみれば、不動産売買時のセールスと同じなんですよね。

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田舎暮らしはいいことばかりではないけれど…

つまり、イベントとはそういうものだと十分に認識した上で、その機会を“自分なりに”利用するしかありません。

お客さまという立場に甘んじて、ぼんやり何となく与えられた情報を見聞きするのではなく、

「自分たちの暮らしにとって、その近さは本当にメリットなの? その程度のいい空き家は本当に魅力があるの?」

などと想像し、洞察する必要がある、ということです。

以下に、いくつか例を示します。

「こんなセールスポイントがありますよ!」という説明から、ぜひあなたなりの検討を導き出してください。

<ケース1>「東京から○キロ圏内」「東京駅から○分」などという近さアピール


(c) kuromame – Fotolia

特に二地域居住の場合、都心からの近さは大きなメリットです。

車で行くことがほとんどだという方も、公共交通機関でのアクセスはチェックしておくといいです。

「今週は車が使えないけど、どうしても行きたい!」とか、「急な仕事が入って直ちに帰りたいけど、恐ろしい渋滞があるから今回ばかりは電車で!」といったこともありますよね。

車だと1時間半の場所でも、公共交通機関での移動だと本数の少ない市営バスを使わないと駅まで行けない、といったこともあります。

また、距離的には近くても、都内の渋滞箇所を通らないと到達できない、1時間半で着くはずなのに週末は3時間かかるなど、居住地によって条件が異なってきます。

ちなみに、いま、わたしの家がある南房総市は、当初は検討範囲外でした。もっと手前のエリアでずっと検討しており、それより先は「遠すぎてムリ」と決めつけていたのです。

ところが、ふとしたきっかけで一度訪れてみると、距離はだいぶ遠いし、たしかに少し余分に時間がかかるけれど、空いている道路を走るためか実際よりも近く感じて、「ここまで来ても意外と大丈夫だね!」と驚いた記憶があります。渋滞の道を同じ時間走るより、空いている道のほうが疲れないのです。

時間距離も大事ですが、“ストレスが少ない”ことのほうが優先されると思った次第です。

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次ページ ▶︎ | <ケース2>うまくいっている「起業家」の話を聞く

<ケース2>うまくいっている「起業家」の話を聞く

移住して、仕事をつくり、生き生きと幸せに暮らしている方の事例は大いに参考になりますし、何より励みになりますよね。

彼らの周りには能力の高そうな仲間がいて、事業も発展的で、なんというかこう、成長や向上や拡大の夢が叶いつつある活気とオーラがありますから。誰しもが半ば憧れの気持ちで彼らの話を聞き、感心します。

最後にはその人のファンになり、その地域のファンにもなれば、それだけで主催者の目的達成にはなるのかもしれません。

でも、参加者が向き合うのは、自分自身の人生です。

…彼らのようにごっつい仲間ができるのかなあ。

…起こした事業が軌道に乗るまでもつかなあ。

…ましてや、成長曲線が描けるのかなあ。

不安や焦りが、あとから湧いて出てきます。

だいたい、なぜそういう風にうまくいったかは、実はよくわからない。知ったところで同じ方法をとればうまくいくとも言えず、結局「あの人と自分は、違うから」と、妙な感じで納得することに。笑。

イベントなどで紹介されるのは、あくまで「成功事例」です。

そして、その蔭には、起業を失敗して場所を離れた人、違う職業につくことで生計を立てている人が何倍、何十倍もいます。あるいは、大成功ではなくて「かなりぼちぼち」だけれど、とても楽しく暮らしている人もいます。

目指す事例を学ぶのは大事ですが、その他のリアルな暮らし方を深く学ぶことも、同じくらい重要です。

地方には、「食べていけているの?」という小さな仕事をつないで、幸せに生きる人が割といます。贅沢さえ言わなければ、自分の人脈のなかでなんとなく仕事が来て、なんとなくどうにかなってしまう。

小さくてもいい仕事を続けていると、ほうぼうから声がかかるようになり、楽しくも忙しい日々を送る、という友人が何人もいます。事業拡大ということは、彼らの頭にはなさそうです。

以前、とてもよい果実をつくる農家さんの営農計画を聞いているとき、あまりにもワクワクしたので「ここで売ったらもっと売れるのでは」「こんな人と連携したらもっと広まる」などとウッカリ提案したことがありました。

すると彼に、「僕はここを大きくしたいとは思ってないんです。妻と自分が、ある程度稼げて、生きていける規模でやりたい」と言われ、恥かしくなったことがあります。

いつの間にか事業拡大病に蝕まれていた自分を、思い知りました。

2倍、3倍の収入を得ている都市生活者よりも豊かな食生活、豊かな人的環境を得ている人たちが実際にいても、それが成功事例として紹介されることはあまりありません。それは、安定的に収入を得る保証がない暮らし方は、「そうは言っても不安定だよねえ」と一般的には選択肢に入らないからです。

わたしがその「かなりぼちぼち」な彼らの魅力的な暮らし方に接するなかで感じたのは、人生のなかでの目的が“一般的”な人とは違う、ということです。

優先されるべきは、成功なのか、幸せなのか。

成長こそが幸せなのか。成長せずとも幸せなのか。

低空飛行で幸せに生き抜くワザは何なのか。

きっと、田舎暮らしを検討している人のなかには、そうした低空飛行な生き方に興味を持つ人が少なからずいると思います。成功事例に触れたあとは、そのツテを頼りに、「かなりぼちぼち」の暮らしに触れる機会が持てると、田舎で働き生きるイメージが広がるはずです。

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<ケース3>いますぐにでも住める「程度のよい空き家」の紹介

手入れが行き届いていて、傷みが少なく、そのまま居抜きで住める空き家を紹介してもらえるケースがあります。

なんて楽ちんだろう! と心惹かれますよね。

世の中に空き家多し、とはいえ、程度のよいものはそれほど多くないですから。

基本的に、そうした健康な空き家を見つけるのは、正しいことだと思います。前の持ち主が直前まで住んでいたなどして、管理がしっかりされた物件は、その後も問題なく住み続けられることが多いです。

手を入れなくなって時間が経つと、家はあっという間に劣化していきますが、そうなる前に次の住人が決まるというのは、家にとってもラッキーなことです。

でも、「ここはすぐに住めます!」と紹介された空き家の、ロケーションがどうも…ということはよくあります。「けっこう市街地っぽいのね」とか、「景色はそれほどなあ」とか。また、田舎の家=古民家、ではありませんから、築年数が浅くて新しそうなものもたくさんあります。

ほしい場所に、ほしい程度の空き家がある確率が低いこと。

一見よく思えた空き家が、理想どおりの風情というケースはもっと低いこと。

これらは、初めにしっかりわきまえておくべきです。

現地で「いい物件」として案内される家は、地元の方が現実的に暮らしやすいと思うものであり、田舎暮らしを求めて移住する人が理想とする物件とはちょっと違う場合もありますから、紹介されればされるほど妄想していたものとのギャップにどんどん気分が下がる…ということも。笑。

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そこで、ふまえておくといいことが、さらにふたつあります。

「家」は手直しできても、「立地」は手直しできない、ということ。

それから、「住める空き家」という程度は、人それぞれだということ。

友人に、普通考えたら住むことはできないんじゃないかという程度の家を購入し、移住した女性がいます。戸を全部締め切っていても風が吹き抜け、光がこぼれるような家です。

彼女のような度胸のないわたしは「ここ怖くないの!?」と驚きましたが、当の本人はけろっとしています。あまりにも心許ないつくりを見た友達が、見かねて修理しに訪れ、屋根や柱など要所をトンカン直し、少しずつ“住むことのできる”状態へと進化しています(“住むことのできない”状態でも住んでいるんですけれどね! 笑)。

家の周囲には畑が広がり、広い蓮畑もあり、ヤギや犬を飼ってのどかに暮らすには最適な場所です。天気のいい日には、縁側に座って、こうした風景を眺めながら手仕事をしているのでしょう。

この家にいるととても不思議な気持ちになります。昔、といっても親の親くらいの時代の人は、雨漏りや隙間風のある家を直し直し住み、侵入してくるアオダイショウなんかも新聞紙を丸めて退治し、お風呂やトイレもいったん外に出てから入るようなつくりで、それが当たり前だったんだなあと。

いまでは住居の建築基準が厳しくなり、人を守るシェルターとしての機能を満たしていないと新築が認められません。わたしたちも、それに準じた状態でないと不安を覚えるようになっています。

安全な家に住むに越したことはありません。

でも、プリミティブな機能しか(さえ)ない家に幸せそうに暮らす彼女を見ていると、家の程度が人の暮らしの幸不幸を決定するとも言えないと、正直、思えてきます。

あなたが幸せになる、住まいの条件は何か。

一般的な条件を並べるのではなく、改めて自分に問うてみてもいいかもしれません。

情報の奥に隠れた「暮らし」を想像してみよう

いかがでしょうか。

イベントなどで得られる情報は、いいきっかけとなります。

与えられた情報の奥に隠れたさまざまな暮らし方を想像し、自分が本当に求めている暮らしをとらえてみてください。

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この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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